デカい敵に勝つには? 「ルーズヴェルト・ゲーム」
自分たちには、自分たちのよさがわからない。外部の人間が見たとき、つまり比較するものを持っている人間が見て初めて、会社のどこが優れているかがわかるんだ。
池井戸 潤 著「ルーズヴェルト・ゲーム」
大手ライバル企業に攻勢をかけられ、業績不振にあえぐ電子部品メーカー「青島製作所」と野球部の大逆転劇を描いた小説。著者は「下町ロケット」の直木賞作家、池井戸 潤さんだ。調べてみるとTBSでドラマも放送されていたらしいので、知っている人も多いかもしれない。
引用は、青島製作所の創業者で現会長の青島毅が、現社長の細川充に対して言った台詞だ。細川は外資系のコンサルタントとしてエレクトロニクス分野で高い評価を受けていたが、プレイヤーとして自分の力を試したいとの思いから、5年前に青島製作所に就職した。2年前に青島が体調を崩した際、当時営業部長だった細川を社長に抜擢したという背景がある。大株主に痛烈な一言を浴びせられた細川が、その帰りに何故自分を後継に指名したのかを尋ねたシーンだ。
青島製作所の経営力、営業力、技術力は、古参の役員にとってすべてが並に見えるが、細川には数百と見てきた企業との比較ができる。どこが秀でていて、どこが並なのか。結果として、以前は目立たなかった分野で新たな経営軸を打ち立てるという偉業を成し遂げた。
自分があたりまえだと思っていることほど、「よさ」には気づけない。それに気付くには、方法は一つしかない。それを青島が教えてくれた。
比較するものをもつことだ。
他者を見つめることで自分が浮き彫りになる。
「この人はここが優れている」「ここは自分と変わらないな」と、一つ一つ分析していく。思い込みではなく、データと明確な根拠を持って他者を見つめる必要がある。
話をしたり、仕事ぶりを見たり、成果物を見たり。そうやってデータを蓄積していく。
他者を評価することは、自分を評価できる材料を持つことと同義だ。
次に、仮説を立てる。「自分の長所はここなんじゃないか」と。表面的でない、本質的な、潜在的な長所を見出すにはこれしかない。仮説と検証を繰り返すことで、自分像を明確に形成していくことができる。
そして、長所へ投資し、伸ばす。
この小説の面白さは、青島製作所の「技術力」、野球部の「得点力」という、ある一点の長所を伸ばすことで大逆転を引き寄せるところにある。
マルチな能力がある必要はない。どこか一点、誰にも負けないものがあればいい。
これは、人間の成功の秘訣だとぼくは信じている。