自分の悩みにマジメに答えてみることにした

東京でサラリーマンをしながら、エッセイを書いています。たまに書評ブログも。「3分間であなたに新しい視点をひとつだけ増やす」をコンセプトにほぼ毎日更新中。

プロポーズはどうしたらいいだろう?

2015年12月。クリスマスも間近に迫った休日にぼくはプロポーズをした。

一生に一度のことだから(人によっては何度もあるようだが)、どうしたら特別なプロポーズになるだろうかとあれこれ考えていたある日、ネットでこんな記事を見つけた。

「一生の思い出に残るプロポーズをチャペルで」

 なんでも、今やチャペルは式を挙げるだけでなく、プロポーズのために貸切ることができるらしい。こんなことを言ってしまうとロマンティックのかけらもないのだが、資産を有効活用したうまい商売だとぼくは思う。

式を挙げた今のぼくが思うことは、結婚という人生の一大イベントにはあらゆる経済が関わっているということだ。今さっき自分でも書いているが、”一生に一度プレミアム”はとにかく金銭感覚を鈍らせる。

写真をきれいに残したい。映像も残したい。ご飯とお酒は美味しいものをみんなに食べてほしい。プロフィールムービーはやっぱり華やかにしたいよね。お花も一際大きいものを飾りたいな。…

例を挙げたらキリがない。

その”一生に一度プレミアム”の一つが、まさにチャペルプロポーズだ。

 

何となく、チャペルは海沿いや山奥にあるもの、といったイメージだったが、調べ始めてみると東京には案外チャペルが多い。どれもきれいな写真ばかりで、「高層ビルが立ち並ぶ灰色のジャングルにも、ステンドグラスから光が注ぐ美しいチャペルはあるものなんだな」と、月並みなことを思った。

調べていると、目を引いたものがあった。

チャペルの目の前に東京タワーが見えるのだ。

これだと思った。

東京スカイツリーが完成して久しいが、未だに東京のシンボルは東京タワーだ。その内、世代交代があるかもしれないが、「やっぱり東京と言えば東京タワーだよな!」と頑なに言い続けたいと思う。

早速、その東京タワーが見えるチャペルに電話してみた。その辺りのフットワークの軽さには自信がある。人の視線や言動は考えすぎて日が暮れるくらい考えてしまうのに、新しいことを始めることに対しては"坊ちゃん"くらい無鉄砲だ。

「チャペルでプロポーズができるとネットで見たんですけども…」と聞いてみると、「はい!承っております!」と、さすがは式場スタッフ。丁寧でいて、はきはきとした受け答えに大変気持ちがいい。それからトントンと話が進み、「それでは、お打ち合わせをさせていただきます」と式場スタッフ。当日行って、ドン。みたいなことではなく、しっかりと念入りに計画をするようだ。

打ち合わせに行く途中、立派な東京タワーが目の前に見えた。小さい頃に一度だけ上ったことがあると両親から聞いたことがあるが、正直まったく記憶がない。それでもやっぱり東京のシンボルだな、と再認識した。

チャペルは東京タワーと道1つ挟んで目の前だった。下の階はレストランになっていて、最上階がチャペルという作り。昼前に行ったのだが、タキシードと留め袖を着た夫婦が1階の受付付近でそわそわとしていた。全身から緊張しているのが見て取れる。当人が緊張することはあっても、両親がなんで緊張するのか、と当時は不思議に思ったが、式を挙げた今なら気持ちはわかる気がする。

肝心の打ち合わせだが、電話でもできるような内容だった。おそらく細かい部分まで詰めるというよりは、「当日は私が味方ですよ」ということを事前に顔を見て、知っておいてほしいということだったのだろう。当日行って困ったことがあった時に「今日プロポーズするんですけど、指輪忘れました」とかその辺のスタッフに伝えて、「はぁ、お気の毒です」なんて返されたら、ある意味一生の思い出になってしまいかねない。そのあたりのサポート力はさすがチャペルといったところだ。

 

当日。

ぼくはクリスマスディナーに彼女を誘った。もちろん、あのチャペルの下の階のレストランだ。しかし、ディナーの前にクリスマスイルミネーションを見ていたら、予約の時間に間に合わなくなってしまった。大失態。

「すみません」と受付に行くと、打ち合わせをしたスタッフの姿が見えた。彼女から見られないようにそっと「大丈夫ですよ」と言われ、心底安心した。事前の打ち合わせのおかげだ。

席に案内されるまでの間、受付付近で待っていると彼女がぼくに声をかけてきた。その手には一枚の紙があった。

 

「ここ、結婚式挙げられるみたいだよ」

 

全身の血の気が引いた。

「へー!あ、へー!!そうなの!!へー!!」必要以上にボリュームが大きくなり変な感じになったが、辛うじてごまかした。後から彼女にも確認したが、ぼくの計画には気づいていなかったようだ。危うく、全てが水の泡になるところだった。

ディナーが始まり、メインの肉料理を食べ終わった頃に、ぼくはおもむろに立ち上がる。

事前の打ち合わせではこうだ。

ぼくがチャペルへ先回りし、スタンバイ。スタッフから彼女に「お連れ様が上の階でお待ちです」と声をかけ、チャペルに来てもらう。いわゆるサプライズなのだ。

チャペルに着くとライトアップされた東京のシンボルが目の前に高くそびえたっていた。見ごたえは十分。後はどう伝えるかだ。

何と言おうかと考えてはいたものの、直前になるとうまくまとまらない。普段飲まないお酒を飲んだせいなのか、緊張しているからなのか、余計に頭が回らなかった。ぼくの勝手な想像の中で、彼女は泣くのではないかと思っていた。泣く彼女をさすりながら、プロポーズ。こんな感じだな。

静かなチャペルの外から少しだけ声がする。その直後大きな扉が開き、彼女が一人で現れた。割とぽかんとした顔で。

1年後くらいに聞いた話だが、何が何だかよくわからないままレストランの最上階に連れて来られ、とりあえず来て扉を開けてみたらチャペルだったから、さらに訳が分からなかった。とのことだった。

すべて計画通りだった。でも、彼女側からしてみたら、謎だらけだったようだ。

サプライズは難しい。

 

そんなエピソードを未だに話しながら、よく嫁と笑っている。

「でも、東京タワーはきれいだったよね」

一生の思い出に残るプロポーズをチャペルで、ぼくはできたと思っている。

思った通りには行かなかったけど。